昭和初期を彩る魅力的な作家たち

昭和初期は文学が活発な時期でした。作家が小説を書く事自体現代とは変わりませんが、その当時作家が社会的に担っていた役割は大きく違っているのでしょう。作家は時代の先駆者であり、オピニオンリーダーであり、文化人でありました。小説を読む事自体地方に至っては今より普及率が無かったかもしれませんが、その影響は大きかったと言えるでしょう。有名作家の1人太宰治などは時代の寵児でしたが、太宰の小説を読んでいる事自体が何か文化人になったような気にさせてくれるぐらいのステータスは当時有ったようです。

太宰治や芥川龍之介など現在では古典ですが、勿論当時は、新しく、流行的なものでも有りましたし、近代小説自体、日本ではそんなに古いものでは無く、世間一般的に広がっていたのは明治から大正にかけて活躍した夏目漱石・森鴎外などがきっかけとなっています。明治で西洋文化が幾分か入ってきて、大正デモクラシーを経て、民主主義であるとか、自由といったような思想が海外から入ってくるにつれ、民衆の間でもそういう気分が高まり、新しい思想を取り入れた物が流行った時代でも有りました。

自分達でそういった先駆けの思想や情報が得られない大衆は、作家たちの小説にそれを得ようとしていたのです。時代・体制が大きく変わりゆく節目で出て来る作家たちはそれだけ背負っている者も大きくなるので、時代が変わってもずっと残る作品を作れる力量が備わるのかもしれません。作家のジャンルというのもこの頃多分に派生しています。夏目漱石など自由主義を継承する白樺派で有ったり、谷崎潤一郎など耽美小説を書く耽美派、ジャンル化を嫌い、無勝手風に書く無頼派、労働者階級を描写するプロレタリア文学などが様々なジャンルが生まれています。

その中でも昭和初期を代表し、また象徴している作家と言えば、芥川龍之介・太宰治でしょうか。学校でならという理由も有るでしょうが、知らない人はまずいない、という有名作家ですよね。芥川龍之介は夏目漱石にも見いだされ、若いころから文学界のエリートコースを進んだ人でした。それはいわば、それゆえにそれまでの日本文学界の道筋を引き継いだ路線と言えるかもしれません。もちろん彼独自の感性が作品に大きく影響していますが、エリートコースに乗った彼は、ある程度、既成路線を歩んだと言えるでしょうし、その頃の風潮などをより良く感じられる作風と言えるかもしれません。

また芥川はその死が良く話題になります。最終的に自殺をしたのですが、彼が口にしていた「ぼんやりとした不安」というのが、自殺に繋がったという説が多いのですが、それを時代背景と繋げて解析される事も多いようですね。一方、太宰治ですが、彼も生前高い評価は得ていましたが、芥川と比べると評価を得るのに時間が掛った作家でした。また彼は周りの雰囲気や時流の事柄に影響を受けやすい人だったようで、その時々で様々な作家・作風に影響を受け、傾倒し、また当時、学生や文化人と言われる人々が傾倒していた政治活動に同じように傾倒していったようです。

特に当時流行であったマルキシズムという現在の共産党の基本理念になっている主義に傾倒し、実際活動員になっていたようです。太宰は、当時、坂口安吾や織田作之助などと無頼派と呼ばれ、新しい潮流として迎えられていたようです。つまり太宰はその時代に影響を色濃く受け反映していた時代とも言えるでしょう。この二人をいろいろ調べていくとその繋がりから当時の文学界の全体像も浮かび上がってくると言っても過言では有りません。そういった意味でも代表的な作家と言えるでしょう。